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Diary|My Best Hits 2021

中川裕貴による2021年の様々なモノ/表現のベストヒット記録。

 

<音源>

2. Michael Ranta - Taiwan Years(Metaphon)

3. 間宮芳生 - 合唱のためのコンポジション = Compositions for Chorus 1958~68(Victor)

5. Various - 実録・恐山(Yupiteru Records)

6. Various - Ethiopie: Polyphonies Et Techniques Vocales(Ocora OCR 44)

8. 志人 - 心眼銀河(TempleATS)

9. Morton Feldman - String Quartet No. 2(HAT[NOW]ART)

10. Jakob Ullmann - Fremde Zeit -Addendum(Edition RZ)

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順不同。今年は体調の変化に応じて、ライブラリーミュージック→合唱→ワールドミュージック→現代音楽と例外はありつつも基本的には流れました。特に最近また現代音楽づいていて、一周回ってきた感じがある。今年は結構音楽を聴いた感じがするし、また音楽を聴いたりそこから創ることにはかなりポジティブになれた感じがしました。それは来年に反映されていく気がします。


1は再発の10LPもの。Ennio MorriconeとBruno Nicolaiの映画音楽の周縁での音響実験といった趣。昨年にこれのシリーズが1枚だけCDで復刻されて、他のも復刻をと思っていたらすぐに10LPで全部復刻してすぐさま買い押さえました(高かったけれど、そもそも復刻前は1枚2~3万とかになっていて手が出なかったので復刻ありがとうございます)。10LPあるので住繰り聴きながらまた折に触れてこれからも聴きますが、自分の「アンサンブル(複数の楽器が同時にある状態)」の理想の一つがこの音源には散りばめられています。


2は小杉さんや一柳さんとのトリオインプロなどでは音や存在は知ってましたが、単独作品は初めて聴いた。日本と台湾でレコーディング/ミックスされた1971~1978年までの3作を収録したものが今年復刻されていて、内容はかなり東洋チックというか民族音楽的コンクレートって感じですが、こういったものの中では完璧な感じで今しっくりくるものでした。


3はたまたま見つけて衝撃を受けた合唱曲集(3LP)。初期の6つの合唱曲が入っているですが、これも言い方が雑ですが「日本的」というか所謂西洋音楽の合唱とは一線を画すもので、こういうものがすでに50年代~60年代にあるのが衝撃でした。伝統音楽、特に民謡やわらべうたが作品構成にあたっての中心にあるようで、ここ最近神楽や伝統音楽と関わることが多かった自分には既に巨大が先例があることを知りました。引き続き深く聴きこむ必要がある盤です。全曲素晴らしいですが、特に5番の「鳥獣戯画」が本当に凄くて、特にこれは今リイシューしたら海外とかでもかなりうけると思いました(AKIRAのサントラ好きな人とかもいける)。


4は写真集+CDの作品。今年は突然ワールドミュージック(後述するocoraレーベルへの傾倒)に開眼したのですが、そのきっかけとなったものです。収録されている音源としてはアフリカやインドなどの現地録音がメイン。この人の録音したベナンでの音源が1977年に打ち上げられた2機のボイジャー探査機にレコードとして載せられているらしいですが、それも納得の素晴らしい録音。個人的にはDISC1のパプアニューギニアとDISC2の冒頭のインドの録音がベスト。 Charles Duvelleの録音は他にも素晴らしいものが多そうですが、何せ高いですね…。


5.は近年ずっと探していてようやく買えた盤。霊場恐山のイタコを訪ねた70年代のサウンドドキュメンタリー。口寄せの模様や弓太鼓を演奏しながらのイタコの祭文など聴けるのと、それに何故か尺八(村岡実)がフィーチャーされたりする部分やドキュメンタリーなのでナレーションが差しはさまれたりします。体調悪いときには余り聴けないというかどこかに持っていかれるような怪盤(あとこの音源は基本なんか高いです。レコ屋で常識的な値段で売ってたら迷わず買ってください)。個人的には弓太鼓+祭文が本当に素晴らしく、この感じは3の間宮さんの合唱にも通じます。


6,7はフランスの国営レーベルOcoraのリリース。4のCharles Duvelleの音源の影響から夏から秋にかけて狂ったようにこのレーベルの音源を探してましたが、その中でのベストの2つ。6はエチオピアのコーラスというか声のポリフォニーの様々を収めたもの。3のコーラスもまた西洋のそれとは距離をとったものですが、こちらの声のポリフォニーもまた素晴らしい。今年は夏から秋にかけて、現在進行形の音楽が全然聴けなくなって、なんというか遠くの「生活」の音ばかり聴いていたのですが(それがワールドミュージックでした)、これはまさにその典型で、息遣いやリズムが「録音の奥に潜む個々」や身体、声帯から生まれてきていることをひしひしと感じます。


7は所謂バリのガムランです。ガムランも今更沢山聴いたのですが、その中ではこれが個人的にはベスト。特にB面の曲はほとんどDOOMメタル/グラインドコアの趣さえありちょっと一般的なガムラン音楽とは違う感じです。なんといっても合奏される笛の揺らぎと絞り出されるような歌が合わさったときのサイケデリアが最高。これはyoutubeで聴けます。


8だけが今年リリースかつ国内のものです。志人さんはこれまでもいろいろライブも音源も触れていましたが、自分のいる環境や体の状態などの変化からか、今年リリースされたこの音源は本当にしっくりくるものでした。特に9曲目の夢遊趨が素晴らしい。


9,10は現代音楽関連。9のフェルドマンはいろいろ経緯があり、今更発見した盤。これはCD4枚に分かれた、1曲6時間程度の弦楽四重奏です(冒頭の写真は別レーベルからのリリースでこちらは5枚組。野心の人がフェルドマンです)。ある日以前からもっていた「V.A "Klangzeit Munster 2008」というドイツの現代音楽フェスティバルのCDを聴いていたら、この曲の1部が演奏されていて、何も考えずにボーっとCD聴いていて何か良い曲だなと(最初はフェルドマンとも思っておらず、CDのこれの次の曲が古楽の演奏だったので、最初それかと思っていた)。そしてそれがフェルドマンだったので少し驚いたという感じと、実際は6時間という演奏時間の曲だったという点が衝撃でした。僕はフェルドマンは今までもたくさん聴いてきましたが、どうしてもピアノを主体とした人という認識があって、最近ピアノという楽器がそんなにしっくりこないので避けていた部分がありましたが、この弦楽四重奏でフェルドマンのイメージがまた変わりました。この人はまず見た目が最高ですが、この弦楽四重奏も良い意味で現代音楽のスケール(この曲自体、断片は相当ポップというか耳なじみの良いところが多い。ただ6時間ですが)、というかそもそも音楽や聴衆の「スケール」からはっきりと逸脱していて、その逸脱はまさに今、現在に開かれているように思いました(また「逸脱」が現代音楽にありがちな見せかけの孤高感がなく、本当にただシンプルものの中にとんでもない異次元を見せてくる感じなのも最高です)。また個人的にはそれが弦楽によってなされているのが非常に励みになりました。あとフェルドマンのことは下記リンクに大変詳しく書かれていて大変良い参考情報に思いました。


10は今年の現代音楽関連での個人的大発見アーティストの4枚組ボックス。ジョン・ケージの晩年の文通相手であり、ケージの作品を確定楽譜にしているなどなどwikipediaには情報がありますが、その流れを感じながらもそこからさらに進んだ静謐さと独自の音響をもった楽曲が素晴らしかったです。特に3枚目の「Praha: Celetná - Karlova - Maiselova」がその静謐さの最たるもので、部屋で聴いていて、部屋の外で人が話してたり、遠くの方で暴走族のバイクが通っているような音像がスピーカーから聴こえ、それがれっきとしたアンサンブルである点は静かに驚愕しました。おそらく傾倒としては9のフェルドマンと遠くはないのですが、音響や時間の捉え方はまた両者で異なる感じがします(両方好きですが)。またWikipediaにも同時に「1980年代末からヴァンデルヴァイザー楽派を先取りする試みをしている」とありますが、個人的にはヴァンデルヴァイザー楽派よりもこっちの音の感じの方が好みです(主観ですがヴァンデルヴァイザーによりも氏の方が音響、また環境=アンビエンスへの傾倒が強そうなところ、また楽器演奏という面において、その響き/音響の面で氏の楽曲の方が肉感がまだ残っている、そして残ってはいるがそれがはるか遠くにある感じなのが好みなのか思います)


あと下記のもよかったです。


Deben Bhattacharya - Paris To Calcutta, Men And Music On The Desert Road(SublimeFrequencies)

小泉文夫 / 世界の民族音楽 第1集 民族音楽の解明 (プリンスレコード)

SUGAI KEN & Lieven Martens - かぎろひ(Kagiroi)

Côte D'Ivoire: Masques Dan(Ocora)

VEGYN - Like a Good Old Friend


<書籍>

マーク フィッシャー - 資本主義リアリズム

ジョルジョ・アガンベン - 私たちはどこにいるのか?

真木悠介 - 気流の鳴る音 ──交響するコミューン (ちくま学芸文庫)

岡崎 乾二郎 - 感覚のエデン

ユクスキュル/クリサート - 生物から見た世界

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今年は余り本を読めなかったのですが、簡潔に言うと、私たちを取り巻く資本主義やウィルスに対する捉え方(アガンベン/フィッシャー)、或いは一昨年くらいから気にしている文化人類学的な方向(真木)、そして芸術の創作や言語化について(岡崎 乾二郎)、いずれも名著であり、これらだけでも読めて良かったと思っています(岡崎さんのはまだ途中ですが)。また古典ではありますが、ユクスキュルの人間以外からみて世界について(ユクスキュルについてはアガンベンも「開かれ」という本で言及していてとても気になっていてようやく読めました)、今このときにこの書物を読むことの意義も多分に感じました。「私たち」と言い、私たちのためにと結託していく最中にも、その結託に従いようのない認知や知覚をもつ生物がまた私たちの周りに大量に存在していることを知っておくこと。


瞬間は、分割できない最小の時間の器である。なぜなら、それは分割できない基本的知覚、いわゆる瞬間記号を表したものだからである。すでに述べたように、人間にとって一瞬の長さは一八分の一秒である。


一秒に一八回以上の空気振動は聞き分けられず、単一の音として聞こえる。 一秒に一八回以上皮膚をつつくと、一様な圧迫として感じることもわかった。映画では、われわれが慣れている速度で外界の動きをスクリーンに映しだすことができる。そのとき、個々のこまは一八分の一秒の速さで次つぎに送られている。


カタツムリの環世界では一秒に四回振動する棒はすでに静止した棒になっているのである。このことから、カタツムリの知覚時間は一秒に瞬間が三つか四つという速度で流れていると推論できよう。その結果、カタツムリの環世界ではあらゆる運動過程はわれわれ人間の環世界におけるよりはるかに速い速度で流れていることになる。


ユクスキュル/クリサート - 生物から見た世界 より



<ライブ/映画/展覧会/行事/場所>

1/23 角田俊也「風景と声」@外(京都)

7/23 映画「ファンタスティック・プラネット」

9/6 映画「ドライブマイカー」

10/16 ∈Y∋@Contact(ライブパフォーマンス)

11/30 映画「東京物語」

Mr.Robot(ドラマ)

ミッドナイトゴスペル(アニメ)

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角田さんの展覧会がはるか遠くに感じるけれど、あれは本当に自分にとって良い展覧会でした。気に入ったものはほとんど映画で、今更ながら小津安二郎をしっかり見始めました。Mr.Robotは映画音楽をやる際に参考として紹介されたものですが、見始めたらアマプラでシーズン4まで全部みました。ドラマを継続してみたのは人生初めて。主人公がハッカー+SEである点は自分も仕事でSEの端くれをしている身としてなんか見やすいのと、また脚本(主人公の心情に個人的には移入できる部分がありました)や構成、そして音楽も本当に良くできていて、アメリカドラマ恐るべしと思いました(キャストやテーマ、哲学的な面などやはり日本ドラマではできない配慮や深さを感じた。日本ドラマ全然知らないけれど)。ミッドナイトゴスペルも全部見たわけではないけれど、これもいろんな人が既に言っているように本当に素晴らしくて創作に影響を受けるレベルでした。あと今年は新しい良い喫茶は見つからずというかそんなに行けておらず。いろいろとどうしても内に籠る年になってしまった(なので結果として音楽はたくさん聴いた)。

 

2021年メモ:

箇条書きで振り返ると、1月岡山県は矢掛町での米子さんとのサウンドインスタレーション、そして烏丸ストロークロックは祝祝日で三重。3月は今井祝雄さんとの展覧会を+1artにて、展覧会もそうですが、展覧会に向けていろいろと今井さんと話をしたりする時間は非常にかけがえのないものでした。4月/5月もコロナ延期案件がいくつかあり、また5月はGW明けにギリギリで烏丸ストロークロックで沖縄へ(これも祝祝日公演)。ジャッキーステーキハウスが良かったです。6月辺りからはUrBANGUILD展覧会に向けての準備をし、7月は自動演奏チェロ中心のサウンドインスタレーション+ライブパフォーマンス企画「Autoplay and Autopsy」。六日間ですべて別のパフォーマンスは無茶でしたが、いろいろな人とできて良かったです。この展覧会もコロナ禍でギリギリできました。ここ以降また延期、中止案件が続く。8月には小菅紘史×中川裕貴『山月記』と烏丸ストロークロック「祝祝日」で出る予定の豊岡演劇祭2021が中止になり、中止と聴いたその日に気晴らしに鰻食べてスーパー銭湯に行ったら倒れて救急搬送(初めて救急車に乗る)。いろいろ限界が来ていたことを身をもって知り、以降はその影響下で穏便にやっていくことにしました(心配かけた、またかけている人すみません)。9月はアサダワタルさんのコロナ禍における緊急アンケートコンサート 「声の質問19 / 19 Vocal Questions」@東京藝術大学千住キャンパス 第7ホールに出演。これは素晴らしいものだったので、またどこかで映像が見えるようになったらと思っています。10月は日野さん(YPY)とのDUOで渋谷CONTACT、∈Y∋さんのDJがとてつもなかった。また日野さんとのDUOは今後も継続していきます。こちらはご期待ください。そして柴田剛監督新作短編映画「TUNING」の公開録音イベント。同じ映画に対して3回演奏して、それがそのまま映画音楽になるという特殊なシチュエーションを体験する。こちらは来年には映画自体は公開になるかと思います?。またアバンギルド15周年イベントでgenくんとのツーマンもありました。この日のソロ良かったけれど、録音取れておらず。11月は再び岡山は矢掛町にオファー頂き、1月の米子さんとのサウンドインスタレーションを再び、このときはパフォーマンスもできて良かったです(1月はインスタレーションのみ)。そしてまた11月には烏丸ストロークロック「祝祝日」を今度は屋外で。そして12月はイベント「INTERDIFFUSION A tribute to Yoshi Wada」への参加で山梨へ。極寒、極ドローンで稀有な体験でした。今年最後はアバンギルドでアンチボイベントで〆という感じでした。


昨年からあったのですが、8月に体が一度ぶっ壊れてしまい、それからはなるべく無理のないかたちでやろうと思っています。あと今年いろいろとやってみて個人的に感じたのは「もう一度、最小単位でやってみる」ということで、社会の芸術への鼓舞というか献金というかそういうのもほどほどに距離取って、もう一度自分が何をして時間を過ごしていくのか考えようと思っています。なので来年はかなりスローであるけれど、いろいろ精査していくのと、過去の録音を頑張って公開していこうと思っています。来年は倒れないように活動していけるようにしたいですね(というか断固としてそうします)。ご清聴ありがとうございました。



中川 裕貴

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